月夜の下、街の喧騒が遠くに溶けていく。俺はイヤホンを耳に押し込み、画面越しに流れる声に耳を傾ける。リアルなナンパの緊張感とはまた違う、この不思議な距離感。顔も見えない相手と、言葉だけで心の隙間を探り合う瞬間がたまらない。
先週、いつものサイトで気になった子を見つけた。プロフィールには「夜が好き」とだけ書いてあって、どこかミステリアスな雰囲気が漂ってる。俺は深呼吸して、まずは軽く声を掛けた。「月が綺麗だね、こんな夜は誰かと話したくなるよね」と。ありきたりかもしれないけど、こういう夜には詩的な一言が意外と刺さる。
返事は少し遅れてきた。「うん、月を見ながらだと、ちょっとだけ大胆になれる気がする」と。そこから会話が始まった。リアルで道端の女の子に声をかけるなら、こっちの見た目や雰囲気が半分以上を決める。でもここでは違う。声のトーン、言葉の選び方、間合い。それだけで相手の心に触れられるかどうかが決まるんだ。
何度かやり取りして、彼女の笑い声が聞こえた時、俺はちょっとした勝利を感じた。画面越しでも、その響きは月光みたいに柔らかくて、俺の部屋にまで届いてくるようだった。リアルならカフェに誘うタイミングかもしれないけど、ここではもう少し言葉を紡いでみる。「もし今、月を見ながら一緒に歩いてたら、どんな話をするかな」と投げかけてみた。
失敗ももちろんある。何日か前に別の子と話してた時は、俺の言葉が空回りして、気まずい沈黙が続いた。向こうが「ごめん、眠くなってきた」って言ってきて、そこで終了。声だけで繋がる世界だから、相手の表情が見えない分、こっちの想像力が試される。失敗した夜は、月を見上げて「次はもっとうまくやるか」と呟くしかない。
それでも、この声だけの出会いには何か特別な魅力がある。リアルなナンパみたいに一瞬で結果が出るわけじゃない。ゆっくりと、言葉を積み重ねて、相手との距離を縮めていく。月夜に響く声は、どこか儚くて、でも確かにそこにある。次はどんな子とどんな話ができるのか、考えるだけで少し胸が高鳴るよ。