街角に立つ彼女の目は、何か遠くを見ているようだった。夕暮れの雑踏の中、僕はふと足を止めた。ナンパなんて普段はしない。でもその日は違った。彼女の佇まいが、まるで人生そのものを問いかけているように感じたからだ。
「ねえ、何か探してるの？」と声をかけた瞬間、彼女は少し驚いたように振り返った。でもすぐに小さく笑って、「探してるのは私じゃなくて、あなたの方じゃない？」と返してきた。その一言が頭の中で反響した。確かに、僕はその日、何かを見つけようと街を彷徨っていたのかもしれない。彼女と話す前から、答えのない問いを抱えていたんだ。
そのまま近くのベンチに座って、少しだけ話をした。彼女は哲学の本が好きだと言い、僕はその場で「生きる意味って何だろうね」と聞いてみた。彼女は少し考えてから、「意味なんて後からついてくるものじゃない？ ただ歩いて、感じて、それでいいのかも」と言った。その言葉は軽やかだったけど、どこか深く刺さった。ナンパなんて、ただのきっかけに過ぎない。そこから始まる会話が、時には人生の断片を照らしてしまうんだ。
結局、連絡先は交換しなかった。彼女は「またどこかで会えたら、それが縁だね」と笑って立ち去った。僕はベンチに座ったまま、空を見上げて考えた。ナンパって、成功とか失敗とかじゃないのかもしれない。一瞬の出会いが、心に小さな波紋を残す。それがすべてなんだと。
街の喧騒が遠くに聞こえる中、僕はまた歩き出した。次に誰かに声をかける時、きっとまた新しい問いが生まれるだろう。そんな気がして、少しだけ胸が高鳴った。
