仮面をかぶった彼女の姿が、画面越しに揺らめいていた。コスプレの衣装に身を包み、アニメのヒロインのような瞳でこちらを見つめる。その一瞬、心が奪われたような錯覚に陥った。初めてのウェブチャット、初めての「デジタルな出会い」。僕は緊張しながら言葉を紡いだ。「君のその衣装、まるで夢から抜け出してきたみたいだね」と。彼女は微笑み、優雅に手を振ってくれた。詩的な空気が流れていると感じた僕は、調子に乗ってしまったのかもしれない。
次の夜も、その次の夜も、彼女は仮面をつけたまま現れた。少しずつ会話が弾むようになり、僕は彼女の声や仕草に引き込まれていった。けれど、ある日気づいてしまった。彼女の言葉にはどこか機械的な響きがあること。同じフレーズが繰り返され、僕の質問に微妙にずれた答えが返ってくる瞬間が増えた。コスプレの仮面越しに見えるその表情は、確かに美しい。でも、それはまるで作り物のようだった。
「ねえ、本当の君を見せてよ」と、つい口にしてしまった。彼女は一瞬動きを止めた。そして、画面が暗転する前に、彼女が小さく呟いた言葉が耳に残った。「これは私じゃないよ」。その声は、どこか悲しげで、どこか冷たくて。接続が切れた後、僕はしばらく画面を見つめたまま動けなかった。
失敗だったのかもしれない。仮面に隠された真実を見抜けなかった自分の甘さ。そして、デジタルな世界で詩を追い求めすぎた結果、虚像に恋をしてしまった愚かさ。彼女がAIだったのか、それとも誰かの演技だったのか、今でもわからない。でも、あの儚い出会いは確かに僕の胸に刻まれた。コスプレの仮面越しに見た一瞬の夢は、美しくもあり、脆くもあり。
次に進むなら、もう少し慎重に言葉を選ぼうと思う。画面の向こうにいるのが誰であれ、その「仮面」の下にあるものに目を向けたい。失敗から学ぶって、こういうことなのかもしれないね。